大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)3587号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【主文】

一 被告株式会社トーシンは、別紙第五目録記載の虚偽の事実を陳述し、又はこれを記載した文書を流布してはならない。

二 被告らは原告に対し、各自金一〇〇万円及びこれに対する昭和五六年五月三一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三 原告のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

【説明】

当事者の主張は、次のとおり。

「一 請求原因

1 原告及び被告株式会社トーシン(以下「被告会社」という)は、いずれも加圧式ニーダーの製造販売を業とする会社であつて、競争関係にある。

2 被告会社とその代表取締役である被告白川惠庸(以下「被告白川」という)とは、共謀のうえ、「K・K・トーシン製・TDS型加圧式ニーダーについて!!」と題する文書(以下「本件文書」という)を別紙第二目録記載の日に同目録記載の取引先に送付した。」

【判旨】

一請求原因1、2の事実(原告と被告会社が競争関係にあり、被告会社が本件文書を原告主張の日に原告主張の取引先に送付したこと)は当事者間に争いがない。

そして、本件文書に、原告製加圧式ニーダーの回転数が三〇RPMで設計されている旨(別紙第三目録一)、被告会社製加圧式ニーダーのブレードの材質はステンレス鋳鋼でステライト盛を施してあるが、原告製のそれはニッケルクロームモリブデン鋳鋼でステライト盛を施してない旨(同目録二)、被告会社製のもののブレードギヤの材質がクロームモリブデン鋼(SCM4)で、原告製のそれが炭素鋼(S45C)である旨(同目録三)の記載があること、同目録五の記載のあることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<証拠>によると、本件文書には別紙第三目録記載の内容が記載されていること、右記載は原告製加圧式ニーダーと被告会社製加圧式ニーダーの各標準機種(基本設計)に関するものであること、加圧式ニーダーとは、二本のブレード軸が混合槽内で回転し、加圧蓋で材料(天然ゴム、合成ゴム、プラスチックなど)を押し込みながら、材料を混練する機械であること、原告の昭和五六年度の年商は約一八億円で、そのうち約一〇億余円が加圧式ニーダーの売上げであり、被告会社の同年度の年商は約四億円で、そのうち約二億余円が加圧式ニーダーの売上げであるが、両者(原告と被告会社)の国内での加圧式ニーダーのシェア率は九〇パーセントを超えること、森山正夫(原告代表者)は昭和三五年以降加圧式ニーダーを製造販売し、原告設立(昭和三七年)後は原告がこれを引継いで今日に至つていることがそれぞれ認められる。

二そこで、本件文書の記載につき順次検討する。

1 別紙第三目録一の記載について

前認定の本件文書の記載と<証拠>によると、原告製の回転数三〇RPMの加圧式ニーダーは、硬度九〇度以上の材料を混練する場合、温度が摂氏一〇〇度ぐらいに上昇する可能性があるが、ブレードに使用された熱伝導率のよいニッケルクロームモリブデン鋳鋼が熱を奪うことと、ブレード、加圧蓋、及び混合槽全面に採用された特殊ジャケット(通水)構造に通水している冷却水が温度を下げ発熱を抑えることによつて、右温度上昇を防止することができるので、混練中に加硫剤、促進剤が投入可能であり、硬度九〇度以上の材料を混練することもできること、それにもかかわらず、本件文書には、原告製の回転数三〇RPMのものでは硬度九〇度以上の材料を混練することができない旨記載されていることが認められる。

もつとも、<証拠>によると、講師金子秀男の講演メモとして原告が作成した「加圧型ニーダーによる混練りの理論と実際」中の「ニーダー混練の実際」の「(例1)ハイスチレン配合の硬さ90°位の靴底」の欄で、「硬く発熱し易いので促進剤はロール上で添付する。」と記載されていることが認められるけれども、原告代表者本人尋問の結果によると、回転数三〇RPMのもので硬度九〇度の材料を混練することは前記のとおり冷却水を使用することによつて可能であるが、冷却水を使用しないときは念のため右の方法によるべきことを示したものであることがうかがわれるので、右の記載によるも前認定を覆すに足らず、<証拠>のうち右認定に副わない部分は採用できないし、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本件文書には右認定の虚偽の事実が記載されており、右虚偽事実は原告の営業上の信用を害するものである、ということができる。

なお、原告は、本件文書には原告が回転数三〇RPMの加圧式ニーダーしか製造販売していないかのごとき虚偽の記載があると主張するけれども、前認定のとおり、本件文書の記載は原告及び被告会社製加圧式ニーダーの各標準機種(基本設計)に関してのものであり、前示甲第一号証の本件文書をみても、原告製の加圧式ニーダーが回転数三〇RPMのものに限られるとの記載があるわけではないから、原告主張のような記載があるということはできない。そして、<証拠>によれば、原告製加圧式ニーダーの標準機種(基本設計)は回転数三〇RPMであることが認められる。したがつて、原告の右主張にかかる虚偽記載があるとすることはできない。

2 同目録二の記載について

<証拠>によると、原告製加圧式ニーダーのブレードはその材質がニッケルクロームモリブデン鋳鋼であるが、四、五年で再肉盛を施すほど摩耗したことはなく、一五年ないし二〇年間支障なく使用しうるものであること、それにもかかわらず、本件文書には、原告製のもののブレードの耐摩耗性が四、五年であつて再肉盛を必要とする旨記載されていることが認められる。もつとも、<証拠>中には、被告会社では、以前原告製のものと同じニッケルクロームモリブデン鋳鋼を使用していたがすができたこと等があつたので、現在使用しているステンレス鋳鋼に変更したとし、また原告製のものを購入したユーザーからブレードの修理・再肉盛を依頼されたことがあるとする部分がある。しかし、すができたとの被告会社の経験をそのまま一般化して、原告製のもののブレードの耐摩耗期間が四、五年である、と断定するにはその根拠が薄弱であり、また、被告会社が原告製のものの修理・再肉盛を依頼されたとする時点で、その製品が製造販売四、五年を経過していたか否かについての供述があいまいである。また、仮にそのような事例があつたとしても、<証拠>によつて認められる、原告製加圧式ニーダーの生産数年間平均約一〇〇台に比し、僅少な事例にすぎないから、これをもつて原告製のもの全体が前記のような欠陥を有しているということはできず、標準機種(基本設計)について記載した本件文書に、前認定の記載をしたことの根拠とすることはできない。

右認定・説示からすると、本件文書の右記載は虚偽事実を記載したものであり、右虚偽事実は原告の営業上の信用を害するものである、ということができる。

なお、原告は、原告製のもののブレードにステライト盛を施していない旨、ステライト盛を施した場合に価格が五〇パーセント高くなる旨の記載も虚偽であると主張するけれども、前認定のとおり、本件文書の記載は標準機種(基本設計)に関してのものであるところ、右のうち前段の記載は、原告製のものの標準機種(基本設計)につき述べたものと理解することができ、また、後段の記載は、被告会社製のものの標準機種(基本設計)のブレードの材質がステンレス鋳鋼であることとステライト盛を施してあることによつて原告製のものより五〇パーセント価格が高くなる旨を述べたものと理解することができる。そして、<証拠>によると、標準機種(基本設計)の原告製加圧式ニーダーのブレードにはステライト盛が施されていないこと、被告会社製のものの材質はステンレス鋳鋼でありステライト盛を施してあつて原告製のものよりかなり高価格であることが認められる。したがつて、原告主張の右記載は虚偽事実を記載したものとすることはできない。

3 同目録三の記載について

<証拠>によると、原告製加圧式ニーダーのブレードギヤの材質は炭素鋼(S45C)のみであり、ダクタイル鋳鋼(FCD55)は使用されていないこと、原告製のもののブレードギヤが四、五年で摩耗し取り換えたということはなく、通常一〇年ないし一五年間支障なく使用しうるものであること、それにもかかわらず、本件文書には、原告製のもののブレードギヤの材質が炭素鋼(S45C)又はダクタイル鋳鋼(FCD55)であり、四、五年で摩耗多く取り換えを必要とする旨記載されていることが認められる。<反証判断略>

右事実によれば、本件文書の右記載は虚偽事実を記載したものであり、右虚偽事実は原告の営業上の信用を害するものである、ということができる。

4 <省略>

5 同目録五の記載について

<証拠>によると、原告製加圧式ニーダーの起動器のカムコンのメタル部分が粉塵のため三年ないし五年で摩耗して起動器を取り換えたことはないこと、それにもかかわらず、本件文書には、原告の採用しているカムコン方式のものは、粉塵の多い場所で使用した場合、三年ないし五年でカムコンのメタル部分が摩耗し、起動不能となり、起動器の取り換えをやつている旨記載されていることが認められる。

もつとも、<証拠>中には、被告会社は、原告製加圧式ニーダーを購入したユーザー二、三社から、カムコントローラーに使用されているベアリングが粉塵のため回転できなくなりモーターが焼けて起動不能になつたとして修理を依頼され、カムコン方式の起動器を被告会社のマグネットスイッチ方式の起動器に取り替えた例があり、被告会社も以前カムコン方式を採用していたが同様の故障があつたため、昭和四五年ころから現在のマグネット方式に変更した、とする部分があるが、被告会社が原告製のものの修理を依頼されたとする時点で、その製品が製造販売後三年ないし五年を経過していたか否かは、右供述によるも明らかでない。仮に右供述のとおりであるとしても、前認定のとおり、原告製加圧式ニーダーの生産台数は年間平均約一〇〇台であるから、右事例は原告製のものの僅少な事例にすぎず、また、ユーザーによる機械の保守・点検等その取り扱いの状況も明らかでないから、これをもつて原告製品が一般に前記のような欠陥を有しているということはできず、標準機種(基本設計)について記載した本件文書に、右認定の記載をしたことの根拠とすることはできない。

右認定・説示からすると、本件文書の右記載は虚偽事実を記載したものであり、右虚偽事実は原告の営業上の信用を害するものである、ということができる。

三被告会社が本件文書について真実を記載した正当なものであるとの見解を有していることは弁論の全趣旨により明らかであり、このことを考慮すると、被告会社は、将来も前記虚偽事実の陳述、流布行為を反覆、継続し、これにより原告の営業上の利益が害されるおそれがある、ということができる。

したがつて、原告が被告会社に対して別紙第三目録記載の虚偽事実の陳述・流布行為の差止を求める請求のうち、虚偽事実と認められる別紙第五目録記載の部分については理由があり、その余の部分は理由がない、というべきである。

四本件文書の前記送付により、原告の営業上の信用・名誉が毀損せられ、原告が無形の損害を蒙つたことは推測するに難くない。そして、<証拠>によると、被告会社の代表取締役である被告白川がその職務を行うにつき過失により本件文書を作成しこれを送付したことが認められるから、被告会社及び被告白川は、連帯して右行為により原告に生じた損害を賠償する義務がある。原告に生じた無形損害は、前記虚偽事実の内容、送付態様(後記認定の送付先を含む)等の諸事情を考慮すると金一〇〇万円と評価するのが相当である。

そうだとすると、原告の被告らに対する損害賠償請求のうち、各自金一〇〇万円とこれに対する昭和五六年五月三一日(記録上明らかな被告らへの本訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があり、その余の部分は理由がない、というべきである。

五<証拠>によると、被告会社は、別紙第二目録記載の取引先のほかに約三社の取引先に本件文書を送付し、送付した取引先のうち加圧式ニーダーの売買が成約したのは二社のみであることが認められる。

右事実と前記虚偽事実の内容、送付態様とを考慮すると、前記虚偽事実の陳述・流布行為の差止と無形損害金の賠償の認められる本件においては、営業上の信用を回復する手段として別紙第一目録記載の謝罪広告をするまでの必要性は認められないというべきである。

原告は、被告会社に対しては、主位的に不正競争防止法一条の二第三項、予備的に民法七二三条に基づき、被告白川に対しては民法七二三条に基づき、それぞれ右謝罪広告を求めているが、いずれの法条に照らしても、原告主張の謝罪広告をする必要性が認められないとの結論に変わりはない。

そうだとすると、原告の被告らに対する営業上の信用、名誉回復のための謝罪広告請求は理由がない。

六よつて、原告の本訴請求は、右三、四で理由があるとした部分につき正当としてこれを認容し、その余の部分を失当として棄却することと<する。>

(金田育三 鎌田義勝 若林諒)

第一目録 謝罪広告<省略>

第二目録<省略>

第三目録

一 被告会社製の加圧式ニーダーは回転数が二四RPMであり、原告のそれは回転数が三〇RPMで設計されているが、原告製の右回転数がニーダーでは混練不可能な材料(硬度九〇度以上)でも、被告会社製の右回転数ニーダーでは十分混練可能である。

二 被告会社製の加圧式ニーダーのブレードの材質はステンレス鋳鋼でステライト盛を施してあるが、原告のそれはニッケルクロームモリブデン鋳鋼でステライト盛を施していない。したがつて、被告会社のブレードの価格は原告のそれより五〇パーセント高くつき、また、原告製のブレードの耐摩耗性は四年ないし五年であつて再肉盛を必要とするが、被告会社ブレードは耐摩耗性が強く四、五年使用しても摩耗少なく、再肉盛の必要なく使用に耐える。

三 被告会社製の加圧式ニーダーのブレードギヤの材質はクロームモリブデン鋼(SCM4)であり、原告のそれは炭素鋼(S45C)又はダクタイル鋳鋼(FCD55)であるが、前者は四、五年後においても殊んど摩耗しないが、後者は四、五年で摩耗し、多く取り換えを必要とする。

四 被告会社の加圧式ニーダーの減速機は、内部ギヤの材質がアップして外形寸法が大きい。

五 原告の加圧式ニーダーの起動器はカムコン方式であるが、カムコン方式のものは、粉塵の多い場所で使用した場合、三〜五年でカムコンのメタル部分が摩耗し、起動不能となり、起動器の取り換えをやつている。被告会社は、八年前よりカムコン方式の採用を中止し、自社製の起動器を開発納入している、これは完全に密閉されたパネル内で電気的に作動させる方式のもので寿命としては半永久的なものである。

第四目録<省略>

第五目録

一 原告製の回転数三〇RPMの加圧式ニーダーでは硬度九〇度以上の材料を混練することができない。

二 原告製加圧式ニーダーのブレードの耐摩耗性は四、五年であつて、再肉盛を必要とする。

三 原告製加圧式ニーダーのブレードギヤの材質にダクタイル鋳鋼(FCD55)が使用されている。

原告製加圧式ニーダーのブレードギヤは四、五年で摩耗多く取り換えを必要とする。

四 原告製加圧式ニーダーの起動器は、粉塵の多い場所で使用した場合、三年ないし五年でカムコンのメタル部分が摩耗し、起動不能となり、起動器の取り換えをやつている。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!